2024年2月某日 ゴジラが来ませんように

2024年1月~3月に日記屋 月日さんで開催されたワークショップ「日記をつける三ヶ月」(ファシリテーター古賀及子さん)に参加しました。

ワークショップで書いた日記の一部をこちらにも公開します。

 

ーーー

 

目覚ましの音で目が覚めて、それが1回目のアラームであることに安堵する。今日はワークショップ第三回目。前回はアラームになかなか気が付かず遅刻しかけたけれど、今日は余裕を持って到着できそう。

 

ロングブーツを履いて家を出る。足を前に出すと重い革のそれは重力によって、私が足を降ろすより先に地面へ向かう。この重さに歩かされている。

 

下北沢駅からBONUS TRACKへ向かう途中、今日もまたメジロが梅をついばんでいる。やはり春が来ている。

 

ワークショップで「ずっと読んでいたい文章」と言ってくださる方がいてとても嬉しかったと同時に、あぁ私は読みやすさを何よりも大事にしているんだと気づく。そうだ、するすると読めるようにしたいと思い昨晩、ファシリテーター古賀及子さんの日記をまねて改行をたくさん入れたんだった。

 

「日記の面白さは脈絡なく断続的に続いていく生活の様子」と古賀さん。起承転結が予め決まったわけではない、どんなアクシデントが起きようと何も起きなかろうと、1日24時間という単位で進んでいく日記の存在に、救われている。

 

電車に揺られながら、今日は珍しくやることが多いんだと午後のスケジュールを考える。午後一番のイベントは、大好きなパウンドケーキを買って家で食べながら、ワークショップを思い返したりエッセイを読むこと。

 

それから洗濯もしたいし、お昼ご飯はどうしよう。美容院にシャンプーを取りに行ったり友人の結婚祝いも買いに行ったりしたいけど、これは行けたらにしよう。カードショップへポケモンカードも見に行こうとしていたんだっけ。

 

…あとは何かあったっけ。ゆっくりすることが第一優先の休日は、仕事の日と違ってやることリストにもやがかかる。

 

最寄駅に着いて目当てのケーキとお昼のパンを買い、商店街を歩いていく。

 

茶店がピンク色のドリンクやケーキの写真とともに「桜」と書かれたのぼりをかかげている。その横を通り過ぎ、2秒立ち止まってからUターンした。3日前から気になっている桜色の甘いドリンクも買って帰ろう。

 

左手で紙袋を2つ、右手でアイス桜ラテを持って、春の暖かな日差しに照らされ歩く。こんなシチュエーション、どうしたって浮かれてしまう。

 

ブーツの重さと私の浮かれた気持ちでどんどん足が前へと進む。ふと右手に目をやると、直射日光に当たり続けた桜ラテのクリームの表面が少しのっぺりして見えた。

 

塞がった両手でどうにか家の鍵を開け、パンと一緒に飲もうと思っていた桜ラテをずぞぞと一気に吸い込む。氷で冷えた甘い液体が喉を通る爽快感に、春を越えて夏を感じる。

 

パンとケーキを食べながら、エッセイを読んでまったりと過ごす。いつまでもこうしていたいと思いながら他の用事もなんとかこなし、つまらない日常に戻っていく。

 

日付が変わる頃、明日の出張の準備をして床に就く。何度も経験しているのに出張に行くのは毎回新鮮に憂鬱だ。

 

仕事が気がかりというわけではなく、愛しい人の元から遠く離れた場所で寝泊まりするのが億劫だ。隣で眠れない間、どうか彼が無事でありますようにと毎回願う。

 

生きているのか不安になるから連絡頂戴ねとパートナーFに伝えると「ゴジラが来ない限り大丈夫だよ」と私を慰める。

 

彼はゴジラなんていないから大丈夫だよというつもりで言ったんだろうけど、私は「もしゴジラが来たら」と思っていつも怖いんだ。ゴジラは怪獣の姿ではなく、災害や暴力の形をして思いがけない時にやってくるから。

 

出張いやだなぁと呟く私のお腹にあててくれた手が温かく、余計にざわざわとした気持ちになる。これからもこの温かい手に触れられますように。

 

出張に慣れずとも出張前の不安でいっぱいな自分には慣れているのか、その後すぐに寝た。

2024/02/21(水)スマホの充電ができない

2024年1月~3月に日記屋 月日さんで開催されたワークショップ「日記をつける三ヶ月」(ファシリテーター古賀及子さん)に参加しました。

ワークショップで書いた日記の一部をこちらにも公開します。

 

ーーー

 

在宅勤務の今日は満を持して9時過ぎまで寝た。昨日の夜は疲れていてスーパーへ寄るのを忘れてしまい、パンやスープなど朝食になりそうなものが家にない。お腹すいたなぁと視線を上げて、友人からもらったサンリオキャラクターデザインのチョコ「キャラパキ」が机の隅にあるのに気づいた。

 

「キャラパキ」はバンダイが作っているチョコレート菓子で、恐竜やポケモンなどのキャラクターが描かれている。今机の隅にあるのはそのサンリオ版だ。片手に乗る大きさの袋に30グラムほどのチョコが一枚入っていて、柄はランダム。ハローキティマイメロディなど8種類の柄があるらしい。サンリオが好きな私とパートナーFへ、共通の友人がくれたのだった。

 

封を切ろうとして、ランダム性を楽しむお菓子を一人で食べることへの後ろめたさに手が止まる。100円ちょっとのお菓子とはいえ、そもそも二人でもらったものを一人で食べてしまうのはよくないか。やめておこうか。

 

一度机の上に戻した。いや待てよ、このキャラパキは最近ずっと机の上にあったじゃないか。もしやと思って裏面を見る。

 

やはり賞味期限が切れている。そこまで放置していたならば、一人で食べても良いだろう。2023.11の6桁の数字によって、このチョコを黙って食べ、一人で絵柄を楽しむことが許された。

 

封を開けるとホワイトチョコで作られたポムポムプリンがトレーに乗っている。一応写真を撮っておいた。寝起きの喉をパフ入りのチョコがもったりと落ちていく。

 

お昼は台所にあった辛いラーメンに卵を落として食べた。卵をとる時に冷蔵庫にプチトマトとみかんがあるのに気づいてそれも並べる。加熱調理も包丁もいらないフルーツやプチトマトの手軽さは、何ものにも代え難い。

 

夕方、スマホの充電がなくなって寝室まで取りに行く。昔から充電が苦手だ。端末を充電器に刺すだけなのに、異様に面倒くさい。

 

まず充電器を隣の部屋やカバンの中から手元に持ってくるのが面倒だ。充電器を一つしか持っていないのが悪いのだけれど、本体が一台なのに充電器を複数買うのはなんだか癪だ。

 

充電ケーブルを挿すことで、端末の位置がコンセントの半径1m以内に限定されてしまう不自由さにもストレスがある。これは本体を購入した時についてきた純正の1mのケーブルで充電しているせいで、長いケーブルを買えば解決するのは分かっている。しかしケーブルを買いに行くことすら面倒なのだ。値段もピンキリで、どれを買おうか悩むことすら億劫だ。

 

準備しておけば快適に過ごせるとわかっていても、その準備の時点で心が遠ざかっている。その怠慢さが私なのだという不要なアイデンティティが湧き出て、充電したくない感情に自分らしさを探し出す。

 

自分らしさはここにあるのだろうか。やはり面倒くさがりすぎるだけだろうか。

 

自分の怠け具合に呆れながら、目の前の仕事を片付けていく。明日は有給を取って、今週末は4連休にするつもりだ。

 

やり切ったぞ!と勢いよく退勤ボタンを押すつもりだったのに、体調があまり良くなく早めに切り上げた。待ちに待った連休がずるずると始まる。

2024/02/15(木)健康診断

2024年1月~3月に日記屋 月日さんで開催されたワークショップ「日記をつける三ヶ月」(ファシリテーター古賀及子さん)に参加しました。

ワークショップで書いた日記の一部をこちらにも公開します。

 

ーーー

 

暑さが苦手だけど、かといって寒さに強いわけではない。ずぼらな生活をしている割に、毎日天気予報でその日の気温をチェックして服を選ぶ。今日はこのあと暖かくなるらしい。夜になっても15度あるなんて、春の気温だ。

 

上着を持たずに家を出ようかと一瞬考えるも会社の寒さを思い出し、薄手のダウンを羽織って家を出る。 

 

今日、パートナーFは健康診断へ行っている。病院嫌いの彼はもともと健康診断を長いこと受診していなくて、口うるさく行ってくれと頼み続けた。ここ最近ようやく受診するようになった。 

 

健康診断へ行ってほしいと願うのはエゴだ。健康でいてほしい、長生きしてほしい。全部自分のため。もし今後彼が大きな病気をしたら、健診を勧めなかった自分を責めそうだから。

 

昔、病気の祖父へその孫が「おじいちゃんの体はおじいちゃんだけのものじゃないんだから」と声をかけるCMがあった。隣でCMを見ていた私の妹が「おじいちゃんの体はおじいちゃんのものだよ」と言ったことを思い出す。その通りだと思う。 

 

仕事が少し落ち着いて、終電を回避して帰宅する。Fは飲み会のため、夜ご飯は一人だ。

 

食欲がわかなくてソファーでワークショップ参加者の方々の最近の日記を読む。ある方の日記に金柑の話が出ていて、冷蔵庫の中に金柑をしまってあるのを思い出す。何日か前に買っていて食べるタイミングを見失っていた。今だと思い洗って食べる。

 

皮付近が甘い果物はよくあるけれど、金柑の皮の甘さと果肉のしっかりとした酸味は何度食べても面白い。同じ一つの実を食べている感じがしないほど対極の味だ。

 

この小さい丸い実の中に種がいくつも入っているのも見た目とのギャップを感じる。
柑橘類なんだからオレンジのように種がいくつも入っているのは意外でもなんでもないのに、大きさからさくらんぼや葡萄を想像して口に入れて種の存在感に驚く。

 

Fにいくつか残そうと思っていたけれど手がとまらず、全て食べた。口の中が少ししびれる。

2024/02/11(日)ボールペンは104円

2024年1月~3月に日記屋 月日さんで開催されたワークショップ「日記をつける三ヶ月」(ファシリテーター古賀及子さん)に参加しました。

ワークショップで書いた日記の一部をこちらにも公開します。

 

ーーー

 

運転免許の更新に行くので9時に起床。コロナが流行り出してからレンタカーでドライブに行くこともなくなった。今回でゴールド免許となるがもう運転できる気がしない、なんて考えながらばたばたと準備。

 

免許更新のハガキに記載されていた持ち物の中に黒ボールペンがある。ボールペンで何を書くのか前回の更新を思い出しても全くピンとこないが、何かしらに使うのだろう。ぱっと見当たらなかったので、途中のコンビニで買うつもりで家を出た。

 

ボールペンと髪ゴムはよく買っているはずなのに欲しい時に見つからない二大アイテムだ。100円くらいで買えるからぞんざいに扱ってしまう。

 

コンビニでボールペンを買う。安くて良いので1本100円のボールペンを手に取り、セルフレジで購入する。

 

モバイルSuicaを端末に当てると、スマホがいつものようにピピッと音を出さずに購入完了の画面になる。音が出なかったなと思いながらあまり気にすることなく退店したものの、念のためモバイルSuicaの購入履歴を見る。

 

画面には104円の支払い履歴。支払いが完了している安堵と、104円という見慣れない数字に違和感を抱く。

 

消費税が8%だの10%だのになり、104円なんて数字はなかなか見ない。ボールペンは税抜100円、税込110円と値札に書いてあった気がする。たかが数円といえども何か間違いがあって正規の値段を払っていないとしたら嫌だなと思い、コンビニへ引き返す。

 

ルフレジ横に捨てたレシートを確認すると、「セルフレジ利用で5%オフ」その隣に「104円」と記載してあった。

 

免許センターは中々に混んでいた。黒ボールペンは免許センターに用意されていたけれど、せっかくなので先程買ったボールペンの封を開けて使った。

 

写真を撮ってもらったり視力を測ってもらったり、あっちこっちに並んでようやく講習の部屋へ着く。

 

講習開始まで20分ほどあるようなので、持参していたエッセイを読む。一話読む度に、良すぎる…と強く目を瞑ってしまう。他者から他者への愛を知ることが、何故こんなに暖かく幸せな気持ちにさせるのだろう。

自分の文章が誰かの文章に似ることをを恐れて1月から読書をセーブしてしまっていたけれど、人の文章を読むことであれも書きたいこれも書きたいという気持ちになってくる。

 

大学で和歌の授業を取ったことがある。和歌には本歌取りという、有名な和歌を取り入れて新たな和歌を作るオマージュのような技法がある。多くの人に愛された作品へのリスペクトをもって、それを取り込んだり、影響されたりする。そんなの知っていたのに、だからこそワークショップに参加したのに、いざ自分で何か書こうとすると情報を遮断していたことを可笑しく思う。

 

いつの間にか周りの席も埋まりだし、講習が始まる雰囲気がある。急いでスマホのメモ帳に「和歌のよう」と入力して、エッセイと共に鞄にしまった。